坂田マルハン美穂のインド生活通信

 
 

インタヴューなどの仕事の合間を縫って、デリーの随所を視察した。数多くのインド伝統工芸品と触れ合えるディリ・ハートにも立ち寄った。

「廃れつつある」と言われる一方で、モダンにアレンジされた伝統工芸品が着実に増えている。「欲しい!」と思える物があちこちで見られるようになった。さて、ディリ・ハートの断片を、写真で残しておこう。

インドに暮らし始めてからというもの、「基礎化粧品」にかけるお金が本当に少なくなった。まず、洗顔石けん。オーガニック専門店や、各種バザールなどで、天然素材の手作り石けんが廉価で入手できる。

1個約80円から、高い物でも数百円。顔も身体も同じ石鹸で洗ってもノープロブレム。あれこれ試してみて、気に入った物をリピートしようと思うが、どれも大差なく、使い心地は悪くない。

今回、ディリ・ハートのオーガニックフェアで見つけた左上の石けん、それに蜜蝋入りのモイスチャライザーなども非常に使い心地がよい。

化粧水は、無添加のローズウォーター、そしてモイスチャライザーは、そのときどきで気に入った、やはり天然素材物や、アーユルヴェーダのクリームなど。1カ月、かかっても1000円前後で、我が肌は元気に保たれている。

いろいろな手工芸の店舗が軒を連ねているが、毎度気になるのはテキスタイルの店。インドに暮らし始めて以来、いったいどれほどの、布に触れ合って来たことだろう。

木綿や絹ばかりをまとう日々が久しく、最早、化繊を身につけることはできない。人の身体には、天然のやさしい素材が合っているのだということを、肌身に感じる生活だ。

こちらの写真は、ハウズカース・ヴィレッジ。ここ数年のうちに、次々に新しいブティックやレストランが誕生している再開発エリアだ。

とはいえ、狭い路地をくぐり抜け、迷路のような塩梅のこのエリアは、足場が悪く、危険もいっぱい。狭い路地に車が進入するのも不可能だからこそ、働き者のロバたちが労働力だ。

同じルートを行き来しているせいか、右上のロバは、人間のサポートなしに、自ら任務を遂行。お疲れさま! と声をかけたくなる健気さよ。

昨年の4月に訪れて以来、これが二度目のハウズカース・ヴィレッジだが、半年余りの間に、新しい店がいくつかオープンしていた。これから先も、まだまだ増えるのであろう。

さしずめ、デリー版SOHOといったところか。ニューヨークのSOHOは、そもそも工場や倉庫街であった。アーティストたちが倉庫、すなわちロフトを改築して暮らし始めたのを契機に、エリアの個性が育まれていった。

ムンバイも、かつて繊維工場(MILL)などがあった跡地に、ブティックやレストラン、クラブなどが新しく誕生している。これもまた上記と同じような傾向だといえるだろう。

ただ、気をつけたいのは安全性の問題。デリーに暮らす親戚が心配していたのは、火災時だ。特に週末の夜は大勢の人々が詰めかけ賑わうこのエリア。しかし、ここに立ち入る道路は込み合っていて、速やかに消防車が入り込めるような状態ではない。

インドはそのような「安全性」に対する取り締まりもまた杜撰であることから、危険もあるのだということを、認識しておくことも大切だろう。

ローカルのショッピングエリアにも、立ち寄った。この界隈の八百屋は種類も豊富、新鮮な野菜がたっぷりで、特にその勢いのある大根に惚れた。バンガロールは小ぶりの大根が主流。味は悪くないが、この「日本的」な風情の大根に、どうにも心を奪われたのだった。

遠い昔から、旅先では地元の市場を訪れるのが常だった。土地の人々の食の一端を知ることで、その土地がより身近に感じられる。市場はまた、人々の交流の場。たとえ一人旅でも、その場を訪れるだけで、人々と言葉を交わせる機会が得られる。

たとえば、今はなき、上海の三角地市場。湯気が立ち上る蒸篭で蒸された肉まんの、なんとおいしかったこと。

日本占領下にあったころに作られた、やはり今はなき、台北の西門市場。生まれる前の光景を見たような、胸かき立てられる郷愁を覚えた。

あらゆる生鮮食料品が一堂に会したバルセロナのメルカート。わたしにとっての初めての欧州はスペインで、その市場の、東洋世界とは異なる光景に圧倒され、興奮したものだ。

例を挙げればきりがなく、世界の各地を旅し、世界の食を垣間見た経験が、沸き上がって来る。

今回は、仕事での出張であったが、予算を抑えられるということもあり、マルハンの実家に滞在したのだった。義父のロメイシュ、そして義継母のウマは歓待してくれ、特にロメイシュ・パパは大喜びであった。

わたしもなるたけ、朝晩、顔を合わせるようにし、時にはクライアントの方々も招いて夕食をご一緒するなどして過ごしたのだった。

なにしろ、インドは家庭料理が美味である。特に実家の料理人、ケサールの作る北インド料理は、マイルドでやさしく、素材の味が生きている。

その国を知るには、家庭に入ってみるのが一番。もちろんインドのような多様性の国では、数軒を巡ったところで、その実情をつかめるわけではない。それでも、何も見ないよりは、見た方がずっといい。

そんな思いもあり、バンガロールであれ、デリーであれ、クライアントが来訪の折には、家にお招きし、暮らしの一端を見ていただいている。それがまた、インド出張の楽しい思い出の一つになってもらえれば、わたしとしても、うれしい。

今回、ウマに大感謝だったのは、最終日にパシュミナの業者を自宅に招いてくれたこと。カシミールのスリナガールに暮らすファミリーフレンドが懇意にしている商人が、数カ月の間デリーに滞在し、行商をしているのだ。

スーツケースにたっぷりのストールを携えて訪れたその商人。そのクオリティの高さたるや、また格別! 本当に、すばらしいものを見せてもらうことができた。

わずか1週間ながら、デリーの随所へ足をのばし、さまざまなものを目にし、実り豊かな日々であった。デリーの実家の1フロアを改築し、自分たちの拠点に。との計画は久しくあるのだが、なかなか実行に移せないままだ。

あまり先送りにせず、なんとか近年中に具体的に動き出し、デリーへもっと頻繁に訪れなければと、改めて思わされた滞在でもあった。

バンガロールは住みやすいが、首都の力強さはまた、格別だ。そしてムンバイもまた。まだまだインド国内、訪れたことのない地が山ほどあり、旅もしたいと思うのだが、一方で海外にも足をのばしたく、本当に、絞り込むのは難しい。

しっかり優先順位を決めながら、もっと身軽に、動きたいものだ。