インド百景。

坂田マルハン美穂のインド生活通信

 
 

今年もたくさん咲いてくれて、ありがとう。

また、1年後にお会いしましょう。


【過去の月下美人の記録】

2010年 夢と現の狭間で揺れる。幽けき月下美人の宵。

2011年 上弦の月、夢一夜。月下美人囲み、杯傾ける。

2012年 今年も忘れ得ぬ夜。月下美人を囲み幸運の宴。

開花が確実だとわかった朝、友人らにメールで月下美人鑑賞会を実施する旨、知らせた。

これで三度目の鑑賞会。昨年の後半に庭の工事を行ったこともあり、鑑賞用の空間を「それらしく」演出することができることもあり、今まで以上に多くの人に声をかけた。

Facebookやツイッターでも、数日前から月下美人の様子を伝えてきた。なぜそうまでして、月下美人、月下美人と騒ぐのか。と思う方もいるであろうことは、察しがつく。

しかし、一度この一斉の開花を見れば、そうせずにはいられなくなるのだ。一人でも多くの人に、この開花の様子を見て欲しいと思わずにはいられない、そんな力を、この花は秘めている。

静かに、しかし確実に、開きゆく過程の姿。

灯りに浮かび上がり、風にゆらり、ゆらりと揺れるさま。

やがては、両手に包み込んでさえ余りあるほどの大きさにまで、花びらを広げる。

花びらがじわじわと開くにつけて、得も言われぬ甘い香りが放たれ、見る者の五感に染み入ってくる……。

どんなに言葉を尽くしても虚しく、百聞は一見にしかず、である。

日没後、午後7時30分ごろから、徐々に開き始めた。ちょうどそのころ、1名のゲストが来訪。初めての月下美人の様子に、興奮状態で、

「この蕾がまた、いいですね! みんなも早く来ればいいのに!」

と、月下美人が放つ、予想以上の妖艶な雰囲気に、心を一気につかまれた模様。その後、次々にゲストが来訪。みなそれぞれに、感嘆の声を上げながら、その様子を眺め入る。

開花の朝の蕾は、前日よりも全体にぷっくりとして、先端が少しほころび、花びらの様子が垣間みられる。全部で15あった蕾。成長の速度が違うように見受けられたので、分割して咲かれてはいやだな、と思っていたのだが、1輪を残し、すべてがふっくらとしている。すなわち14輪が一斉に開花するわけで、とてもうれしい。

今日は仕事をせず、昼間はラルバーグ植物園へと赴き、毎年恒例のマンゴー祭へ赴いた。

似たような写真だということは承知なのだが、いろいろな角度からのいろいろな表情を捉えたく、撮らずにはいられない。

ゲストの皆さんも、飲み食いに突入する前に、取り敢えずは撮影である。今日はまた、「縁」とか、「タイミング」とかについて、考えずにはいられなかった。

以前から楽しみにしていた人たちが、どうしても外せない残業が入ったとか、急な体調不良だとか、日本からの友人を空港まで見送りに行かねばならないとか、日本からのクライアントをアテンドせねばならないとか、インド国内を出張中だとかいうことで、参加できなかった。

一方、3年連続で、あるいは2年連続でさりげなくグッドタイミングにご来訪の人たち、たまたまデリーから出張で来ていて、月下美人の鑑賞会とも知らず、もちろんわたしのことも知らず、友人に伴われていらした方もある。まさに花が結ぶ一期一会、である。

来れられなかった方からは、「写真を載せてください!」とリクエストがあり、それもあってたくさん載せる次第だが、「また来年いらっしゃいよ」とはいえないところが惜しい。帰任間近の人もあり、束の間、この地に暮らす人たちの多い状況もまた、タイミングの妙を思わせる。

ケミカルフリーの農家の店が大半となっていた今年。熟するのを促進させる農薬が数年来の社会問題になっていたこともあり、オーガニックやケミカルフリーのマンゴーを産する農家も、3、4年前から増えていたのだ。

“Naturally riped”  “No chemicals”といったバナーのある店から、数種類のマンゴーをあれこれと購入。アルフォンソ、マリカ、バダミなどさまざまな種類があるが、いずれも、1キロ50〜70ルピー程度。ついつい多めに買ってしまう。これでマンゴー好きの夫もしばらくは幸せだろう。ちなみにマンゴー祭は15日まで開催されている。

なにしろこの時期、仕事で疲れて帰って来ても、「食後にマンゴーを食べながらクリケットの試合を見る」という彼にとってはかなり至福な状況が整えば、たちまち笑顔になるのである。シンプルって、すてき。

普段は地味でうすら汚れた葉を鉢から伸ばし、手入れをされることもなく、放置されるままに 庭の片隅で、しかし確実に成長する植物。

開花するのは、わずか4時間程度。8790時間分の4時間。そのわずか数時間の開花のために、残りの8786時間は、ただ、ひたすらに、無口に、黙々と、地味に、在る。不思議なものである。

ゲストが帰られたあとは、いつものように、夫と二人で、またしばらく、静かに花を眺める。