BANGALORE GUIDEBOOK バンガロール・ガイドブック

毎日カレー? お腹を壊す? 

正しく食べれば健康な食生活


地方、宗教、コミュニティ、階級差……と、多様性に富んだインド。食生活もまた「カレー」のひとことでは語れない、ヴァラエティ豊かな世界が広がっている。今回は、そのごく一端を紹介するとともに「胃腸の管理」に関する注意点について触れたい。(フリーペーパー『シバンス』寄稿記事を加筆修正)

●インド人は、毎日カレーを食べてるの?

 

インドに暮らして十余年。今まで何度、この質問を受けてきただろう。これは、日本人に対して「毎日、醤油味の料理を食べているの?」と尋ねるのと同じような、一瞬、答えに窮する質問である。


インド在住の読者なら、当然ご存知だと思うが、日本人がイメージする「カレーライス(福神漬けやラッキョウ添え)」は、インドには存在しない。もちろん、固形のカレールウなどもない。


日本でおなじみのカレーは、インド料理をもとに英国で誕生したもの。ルウに小麦粉を加えてとろみをつけた、いわゆる欧風カレーだ。これが明治初期に日本へもたらされ、日本なりの進化を遂げた。固形のカレールウは、それまでハウス食品と並んで、昭和初期からカレー粉を販売していたヱスビー食品が、1954年(昭和29年)に新製品として販売したのが最初だとされている。


「何時間もじっくり煮込む」「カレーは作った翌日がおいしい」というのも日本流。インドでは、風味豊かで滋味に富んだできたてを食する。また、日本のカレーには、肉や野菜など複数の具が用いられるが、インドでは、メインとなる具が単品である場合が一般的だ。


さて非常に大雑把だが、ここでインドの食の概要に触れておきたい。日本の約9倍の国土と約10倍の人口を擁するインドでは、地方や宗教などによっても食生活が異なる。まず、菜食のヴェジタリアン、非菜食のノン・ヴァジタリアンという大きな括りがある。同じノン・ヴェジでも、帰依する宗教により、食べられる肉の種類が異なる。また同じヴェジでも、卵を食べる人、食べない人がいる。ジャイナ教徒は、根菜類も一切、口にしない超菜食主義だ。


さまざまな表情を持つインド食文化の、敢えて共通項を挙げるとすれば、「多種多様のスパイス(香辛料)を巧みに調合した“マサラ”を活用している」ということだろう。マサラとは粉状にした複数のスパイスを混ぜ合わせたもの。家庭のマサラは、料理の素材に合ったものが調合されると同時に、気候や家族の体調なども考慮されることから、インドの家庭料理は「薬膳」のようだともいわれている。


ちなみに、日本でも知られるタンドーリ・チキンやナンなどは、ノン・ヴェジタリアンが多いイスラム圏の影響を受けた北インド料理。タンドールと呼ばれる大きな窯の底で炭を燃やし、長い串に刺した肉や野菜を窯に差し込んで、あぶり焼く。ナンなどのパン類は、窯の内側に貼り付けて焼く。


なお、精製小麦粉(MAIDA)を酵母で発酵させて作られるナンは、一般に外食料理。家庭では無精製の全粒小麦粉(ATTA)を発酵させずに焼くチャパティ(ロティ)が主食だ。ナンよりもチャパティの方が栄養価が高く繊維質も多い。ちなみにダールと呼ばれる豆のカレーとチャパティの組み合わせは、日本でいうご飯と味噌汁の位置づけだ。


小麦粉の消費量が多い北インドに対し、南インドは米食が中心。バナナの葉に、複数の野菜や豆の煮込みと山盛りの白米を盛ったミールス(定食)は、ローカル食堂の定番料理だ。米と豆の粉を吸水させてすり潰し、発酵させた生地で作られるドーサやイディリ、そしてサンバールと呼ばれる辛みの強い具入りスープは、典型的な南インドの朝食である。


同じ南インドでも、イスラム教徒が多いハイデラバードでは、マトンのビリヤニ(炊き込みご飯)が名物だ。また東西沿岸部では、マサラが利いたカニやエビのグリル、魚の煮込みなども食される。東部のベンガル地方では淡水魚の料理が多く、調味には粒マスタードが頻用される……といった具合に、インドの多彩な食事情の例は、枚挙に暇がない。


「インド人は、毎日カレーを食べてるの?」と聞かれれば、「そうです」とは言いきれない複雑さだ。敢えて言えば、「さまざまなスパイスで調理された料理を食べている」と答えるのが無難だろう。



●インドに行ったら、お腹壊すでしょ?

 

日本人に限らず、インドを訪れる外国人の典型的な懸念がこの件だろう。確かに調子を悪くする人は少なくないようだが、これは「気をつけていれば」たいていクリアできる。わたしは仕事の関係で、日本から視察や市場調査に訪れる多くのクライアントに同行してきたが、これまで誰一人として、体調を崩された人はいない。ささやかながら、守り抜きたい記録である。わたし自身も、移住当初に、ついつい生牡蠣を食べて、運悪く当たった以外、インドでお腹を壊したことはない。というわけで以下、経験上、わたしが気をつけている点を紹介したい。   


まずは、水。インドに対する免疫力がついていない人は、飲食店で出される一般のフィルター水を避け、ボトル水を注文した方が無難だ。特に暑い時期こそ、急激に身体を冷やすと胃腸に負担がかかるので「室温の水」を摂取する。また、衛生的でない飲食店のサラダや果物、屋台のジュースなどは避ける。たとえ高級店でも、普段から胃腸の弱い人は、一旦加熱されたものを食した方がいいだろう。


ハードワークな出張者が陥りがちなのは、疲労と食べ合わせによる胃腸のトラブルだ。日本からの出張者は、直前まで仕事に追われ、疲労がたまった睡眠不足の状態で来印するケースが多い。フライトの疲れも加わった体調で、現地の人にインド料理店へいざなわれる。冷たいビールで乾杯のあと、揚げ物のスナック類をつまみに歓談。その後バターチキンやナンなどを食する……。ここに落とし穴がある。


多くの日本人が好むカレー類やダールには、 バターやギー、生クリームなどの油脂が驚くほどたっぷりと使われており、刺激の強いスパイスも多用されている。ビールで冷え、スナックを消化しきれていない胃に追い討ちをかけるに十分な威力があり、消化不良の原因となる。食中毒ではなくても、嘔吐や下痢を誘発してしまう。


なお、インドの家庭料理が薬膳のようでもあるのは、油脂や刺激の強いスパイスを控えめに調理できるからこそ。一方、外食のインド料理は、一般に、濃厚さからくる「旨味」が追求されているため、健康的とは言い難い、胃に重い料理となっていることが多い。汁気のある「カレー風」の料理は控えめに、タンドーリ・チキンや油脂が控えめのソテー類をバランスよく注文し、食べ過ぎないことが大切だ。ちなみにわたしの夫はデリー出身のインド人だが、胃腸がさほど強くない上、辛いものが苦手なので、外食のインド料理は、滅多に食べに行かない。


ある程度の病は気から。「お腹を壊す」「お腹を壊す」としょっちゅう唱えていると、壊さずにはいられない身体になります。ご注意を。