BANGALORE GUIDEBOOK バンガロール・ガイドブック

日本での復職を考える座談会


by Team EduMuse, Muse Creation

30th September, 2019


ミューズ・クリエイションの活動の一環である「EduMuse」のメンバー主催で、『日本での復職を考える座談会』を実施した。日本で働いていた女性たちが、夫の海外駐在に伴い、仕事を辞めて駐在員夫人として帯同。職種や離職の経緯は異なれど、「帰国後の復職」については、みなそれぞれに、不安を抱えている。まずは「思いを吐露しあう場」としての座談会を企画しようということになった。


会の実施に至る経緯を、簡単に記しておきたい。わたし(坂田)は、今から約20年前、ニューヨーク在住時から帰国子女問題に関心を持っており、ミューズ・クリエイションを創設してからも「異国に暮らす子どもの未来」をテーマにした活動に取り組みたいと考えていた。これまで久しく実現しないままだったが、昨年末、ミューズ・クリエイションのメンバー有志の賛同を得て「EduMuse」を発足、遂にはチーム結成に至った。


チーム・メンバーと数回のミーティングを重ねた結果、子どもの教育を考えるのも大切だが、その前にバンガロール生活をイメージしやすくするための情報を提供する必要があるとの結論に達し、準備を開始。今年4月、オンライン情報誌『バンガロール・ガイドブック』を創刊した。サイトのコンテンツをご覧いただけばお分かりの通り、オリジナル生活マップをはじめ、テーマごとのQ&A、各種生活情報など、バンガロール生活に役立つ情報がたっぷりと掲載されている。今後も内容を厚くし続ける予定だ。


帰国子女の教育問題についてを考えようとのミーティングの中で、しかし会話に熱を帯びたのは「日本での仕事を辞めて帯同赴任した妻たち(自分たち)の不安や焦り」に関する話題だった。


そこで、『バンガロール・ガイドブック』内に〈インドでは働きたくても働けないあなたへ〉という項目を設け、「駐在員夫人、それぞれのケース/家族帯同赴任を巡る体験談」を募った。現在、5名の体験談を掲載しているが、いずれも将来を不安に思う人にとっては、得るものがある内容だと察せられる。


http://www.museindia.info/museindia/bangalore-wives01.html

自分の境遇を文字にすることは、自身を客観視することにつながる。また、他の人の体験談を読むことによって、考え方の幅を広げることもできる。


今回、EduMuseのメンバーから同座談会実施の提案を受けた際、日本人駐在員夫人同士が、日本での仕事について、あるいは復職についてを話す機会がほとんどないということを知った。時代は令和を迎えてなお、そのような会話が憚られている、あるいは出にくい環境だということに、わたしは少なからず驚いた。それと同時に、語れる場を設けるのは意義深いことだとも思った。


いくつかの簡単な質問項目を用意し、それについて各々の境遇を可能な限りシェアする気軽な座談会形式を取ることとなった。当日は、坂田を除く、ミューズ・クリエイションのメンバー7名、非メンバー3名、計10名が集い、3時間あまり、語り合った。


それは、共感あり、笑いあり、涙あり、驚きあり、怒りあり、納得あり……と、喜怒哀楽も豊かに、総じて楽しい時間だった。


わたしにとっては、日本の現状、女性たちの立場などについて、間接的に、しかしリアルに知ることができる、極めて貴重な時間となった。日本の働く女性(妻、そして母)の、なんとタフな境遇であろう。


なお、この座談会は、誰かが何かを総括するものでも、結論を導き出すものでもない。背景は異なれど、バンガロールに帯同赴任しているという共通項を持つ人たちが「経験をシェア」することで、自分の考えを整理する糸口が見つかったとしたら、有意義だ。



●まずは以下の5項目について、各自の状況を書き出してもらった。一人ずつ、シェア可能な範囲内で発表していくのであるが、途中で気になるテーマについては、意見や経験を交換し合う。話が白熱して、なかなか次の人に進まず、後半の発表者は十分に状況説明ができなかったかもしれないが、概ね意義深い時間だったと確信する。


1. 海外帯同赴任前の仕事と離職の経緯

2. 仕事を離れるに際して感じたこと

3. 異国に暮らす現在の思い。海外生活が復職に役立つと感じる点など

4. 夫や子どもとの関係や、共働きに対する考えの変化

5. 日本帰国後の生活で不安に思うこと



1. 海外帯同赴任前の仕事と離職の経緯


メーカー、外資系企業、金融機関、メディア、サーヴィス業、医療機関、制作会社、教育機関など、みなそれぞれに異なる業種、職種に従事。


帯同に際しての離職の形態はひとそれぞれ。

・会社の帯同制度を利用して休職

・帯同&育児休暇を利用して休職

・完全に退職

・退職したが再就職先は見つけやすい

・退職したため再就職先があるか不安……



2. 仕事を離れるに際して感じたこと


◎夫の海外赴任を機に結婚。仕事を辞め、新婚生活と専業主婦生活、海外生活が同時に始まった。仕事も、稼ぐことも好きだったから、海外でも働けないものかと情報を収集したが、ヴィザの問題が大きな壁だった。解決策を見いだせないまま帯同赴任した今、自分をどう自己紹介すればいいかわからない。自分の所属を名乗れないことへのジレンマがある。


◎小さいころからやりたかった仕事を、希望していた新聞社で10年間、続けた。無我夢中で働く歳月だったが、少し息切れしてきたと感じたころ、夫となる人と出会い、結婚。帯同赴任、妊娠、出産、育児と、数年間でライフスタイルが激変した。


◎専門職従事。夫とは出会って半年後、夫のインド赴任が決まったタイミングで結婚。自分自身、もう少しでキャリアアップに結びつくタイミングだったため、約2年間、単身赴任してもらい、自分は仕事を続けるか、あるいは帯同赴任にすべきか悩んだ。実母に相談したところ、夫が、彼がどんな人かもよく知らないうちに、離れて暮らすのは賢明ではないとの提言を受け、帯同赴任に踏み切った。


◎医療機関に勤務。最初の2年間、自分は出産直後だったこともあり、夫はインドに単身赴任。夫の任期が伸びたのに伴い、休職扱いで帯同赴任。現在は第二子出産に伴う産休/育休をつないでいる。職場環境はよかったが、ストレスの多いフルタイム勤務だった。一方、今のインド生活は楽しいが、ときどきぽっかりと、空虚な気持ちになり、長く職場から離れていることへの不安を覚える。自分は、心の底から達成感を得られる自分の仕事が好きだと再認識。帰国後は、まず生活基盤を整え、復職するつもりだ。


◎医療機関に正社員勤務していたころは、夜勤もあったことから、子どもが1歳半から2年間、24時間保育に預けていた。翌日の料理の下ごしらえを前夜にするなど、とにかく時間に追われていた。仕事は、経済的理由というよりも、自分の居場所、自己実現の場として続けたかった。「〇〇さんの奥さん」「〇〇くんのお母さん」ではなく、「◎◎(自分)」としていられる場所。しかし、子どもの精神状態が不安定となり、自分の体力も持たなくなったことから、正社員を諦め、パート勤務に移行。正社員だった当時は、すべてを自分で背負っている気がして、辛い時期でもあった。夫の海外駐在がきまったとき、単身赴任という選択肢はなかった。自分にとって、家族が一緒に暮らすことは重要。現在は、メイドを雇わず、家事はすべて自分でしている。しかし、日本に帰国して、再び仕事を始めることになったら、そのときには一人で抱え込まず、夫にも協力を仰いでみようかと思う。


◎メーカー勤務。営業の人事部門に在籍していた。インド帯同赴任以前は、二人目の育休を取っている最中だった。「半年間、復職してインドへ来るか」あるいは「復職しないままインドへ来るか」悩んだ。しかし、職場にしても、半年間だけ在籍されても迷惑だろうと判断。勤務先には帯同休暇制度がなかったことから、退職を余儀なくされた。しかし、もしも帰国後、同じ会社で働く気持ちがあれば、再度就職試験を受けるようにと促された。しかし、どの部署に配属されるかわからない。アラフォーで、自分の不得手な部署に配属されたらどうしようとの不安もある。


◎外資系企業を休職中。勤務先は、日本国内のリモートワーク(在宅勤務)が可能だったが、駐在員妻に対して、それは該当するのかどうか、調べてみたが前例が見つからなかった。夫の会社、自分の会社、インドの移民法の問題など、すべてをクリアした上で、仕事を継続することは困難な状況。


《坂田の所感》今の時代、職場に出勤せずとも実現できる仕事は多々ある。夫の海外赴任帯同を機に、自分のキャリアを中断するよりも、リモートワークが可能であれば、仕事を継続したほうがいいように思われる。一方、帯同赴任の定義を考えれば、妻はあくまでも、夫の異国でのライフを支えるということが大前提。その上で、特別手当なども支給されているはずだ。夫の勤務する会社の条件その他、確認事項は多々ありそうだ。しかし、諸々を考慮したうえでも、1日数時間の短時間でも、日本の職場との繋がりを維持するのは、妻の精神衛生上においても、極めて意義深いとの印象を受ける。前例があれば、シェアしてほしいテーマ。



3. 異国に暮らす現在の思い。海外生活が復職に役立つと感じる点など


◎自分自身の収入がなくなった。お金を使うのに、夫から許可を得なければならないのが、大きなストレス。当初は、友達とのランチでさえも、夫のお金を使うことに罪悪感を覚えていた。このままでは耐え難いと思い夫と相談。ある一定金額は、夫に報告せず自由に使い、一定額以上は相談するといったルールを決めたことで、気が楽になった。


《坂田の所感》参加者の大半が、お金に関して夫に頼ることに、当初は抵抗があったと発言。避けずに話し合うことが大切だとの意見が出た。わたし自身も、35歳で結婚し、ニューヨークを離れ、夫の暮らすワシントンD.C.で同居するようになり、同様の思いを経験した。会社経営に際し、恒常的に心中を占めていた経済的不安から解放されたにも関わらず、不自由さを感じた。夫が何かの拍子に “My money”と口にしようものなら、前後の文脈から悪意も他意もない場合ですら、過剰反応した時期もあった。


◎バンガロールでは、日常生活の中で、人の役に立っているという実感がない。もちろん夫をサポートしているのは事実だが、達成感がなく、社会とのつながりがないように思えてもやもやする。インドに来たら、働けない分、ヨガのインストラクター養成講座を受けようとか、英語力を高めようとか、目標を抱いていたが、理想通りに動けていない自分にストレスや焦りを感じる。自己評価が低下した。一方で「意識高い系」と思われることも不本意。


◎日本にいるときには、似た境遇の友人と親しくしていたが、ここではそうはいかない。異なるバックグラウンドの人たちとの交流に、話が合わず、当初は自分の居場所のなさを痛感したが、今はだいぶ慣れた。


◎帰国後は元の職場へ戻れるので、再就職の心配はない。しかし、焦りなくのんびりとバンガロールで育児をしている現在、難なく職場復帰できるのか不安。同期の活躍を知ると、焦りを覚える。


◎専門職の仕事に磨きをかけるべく、日本から勉強のための材料を用意してきたが、実際、こちらであまり活用していない。メイドを使わず、専業主婦を初めて経験している今、家事だけでへとへとになっている。そのうえ仕事もするのは自分には無理。日本では自炊せず、主にはコンビニ食ですませていたが、こちらでは料理をするようになり、夫の食生活を支えていることにも達成感を覚えている。こちらの生活には、もちろん嫌な面もあるが、楽しんでいる。帯同赴任してよかったと感じる。インド人の考え方、日本人以外の考え方を知ることは楽しい。これは、日本にいたらわからなかったこと。帰国後も、海外の人と仕事がしたいと思うようになった。高度なスキルを要する仕事でなくとも、たとえば飲食店の厨房の食器洗いなどでも。


◎仕事を離れている現在、帰国後に難なく職場復帰できるのだろうかとの不安はあるが、現在、日本では得られない経験をしていることを大切にしたい。ママ友がインド人ばかりという経験も、将来、自分の仕事に活かせるはずだ。



4. 夫や子どもとの関係や、共働きに対する考えの変化


◎日本にいたころは、人の手を借りることに抵抗があり、ファミリーサポートを使おうとは思わなかった。インドで暮らし、メイドなど、他人に手伝ってもらう現在、人の手を借りるのも悪くないと思うようになった。今後は、必要に応じて利用しようと思う。


◎日本にいたころは、多忙だったため、子どもと過ごす時間が短かった。子どもは、小さかったこともあり、ただ、かわいい、かわいいと慈しんできた。しかし、インドでは子どもと接する時間が増え、かわいいだけではすまない現実を実感。日本帰国後、かつてのようなペースで働くことにも懐疑的になっている。ペースを緩める必要性を感じる。



5. 日本帰国後の生活で不安に思うこと


◎新婚でインド赴任となったため、夫は専業主婦の自分しか知らない。日本に帰国すれば、妻は職場復帰するのだということを夫は頭では理解しているようだが、実際に日本での共働き生活がどうなるのか、育児のシェアも含め、極めて不安。そのような話をしたあと、夫が『妻のトリセツ』という本を読みはじめたが、なにかずれているような気がする。


◎日本では金融機関の法人営業をしていたが、海外生活も経験したいと思い帯同赴任。メイドやドライヴァーがいる生活に慣れた今、帰国後の暮らしに不安を覚える。アウトソースできることは他に託すなど、見極めが必要になるだろう。



*日本での共働き&育児経験者による経験談


○早朝起床、家族みんなの弁当を作り、支度をして、子供を託児所へ。終業後、子供を迎えに行き、買い物、夕飯の支度、その他の家事をする。目が回るような忙しさだったから、ルンバや食洗機など、便利な家電に投資し、少しでも家事の労力を軽減できるよう努めた。


○子どもが病気になったときなどは、自分が早退あるいは欠勤する。夫は育児の協力をしてくれてはいるが、すでに決まった行事の日に有休を使うなど、先が読めるところだけ、休む。突発的な事態には妻が対応するしかない。


○身近に育児の協力をしてくれる人がいるかどうかで事情が大きく変わる。赴任前は地元(地方都市)に暮らしており、両親、義理の両親が近くに住んでいたことから、いざというときに子供を預けられた。


○有給を使い果たし、夫に頼ることもできず、遠方に暮らす義理の両親に来てもらい、サポートをしてもらったこともある。


○キッズラインなどファミリーサポートを使うこともあった。費用はかかるが、いざというときのためのオプション。


○子どもの送り迎えや、突然呼び出されたときの利便性を考え、自分の職場の近くに暮らしていた。夫は役割分担をしてくれてはいたが、すでに日程が決まっている行事に参加すると決め、事前有給をとる。一方、妻は臨機応変な対応を望まれる。夫の会社には育休制度があるものの、夫曰く「育休を取る人なんか、いない」とのこと。


○日本では共働きだったが、今は働いていないので、家事は妻がしている。しかし「育児」は共働きであろうがなかろうが、夫婦が一緒にすべきものだと考える。子どものことは、夫婦で一緒に考え、取り組もうと夫を仕向けている。帰国して共働きになったときのことを考え、土日は夫に料理をしてもらっている。


○『妻のトリセツ』(黒川 伊保子 著)を読んだが、実践的で、いい内容。(脳科学の立場から女性脳の仕組みを前提に妻の不機嫌や怒りの理由を解説し、夫側からの対策をまとめた、妻の取扱説明書)


○父親向けの育児書、参考書などがあれば、夫にも読んでもらいたい(要情報収集)